院長ブログ

2016-06-26 08:27:00

ピアノと入れ歯の味加減

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 先日、テレビのドキュメンタリー番組『もう一つのショパンコンクール』(録画)を見ました。ショパン国際コンクールはオリンピックやサッカーのワールドカプより希少な5年に一度、ポーランドで開かれるピアノの権威あるコンテストです。演奏曲はショパンの作品だけに限定され年齢制限(16歳以上30歳以下)もあります。ショパンコンクールと言えばブーニンが19歳で優勝し、それをきっかけにブレイクしたのは有名ですね。日本人でいえば小山実稚恵さん(仙台市出身です)が4位になってからメジャーになりました。
 コンクールでは若いピアニストたちが演奏を競い合うわけですが、そこではもう一つの戦いがあったのです。まずピアニストたちは自分が演奏するピアノをその会場で選択しなければなりません。そこに用意されていたピアノはカワイ(日本)、ヤマハ(日本)、ファツィオリ(イタリア)、スタインウェイ&サン(米国)の4台でした。『ん?ピアノって世界にこの四つしかなかったっけ?』と思いながらもそこに日本のメーカーが2つ入っていることに驚きました。で、これらのピアノのメーカーはピアニストたちに試弾させ、自社のピアノを選択してもらうことに全力を注ぎます。そしてもしそのピアニストが自分のところのピアノを選んでショパンコンクールで優勝しようものならブランドイメージがいきなりアップし、その宣伝効果は計り知れないのは言うまでもありません。そこに調律師を前面に立てたメーカー間の熾烈な競争が展開されるわけです。
 プロゴルフツアー最終日の翌日、優勝した選手がゴルフクラブとともにスポーツ新聞の広告を飾りますよね。ちょうどイ・ボミ選手が毎回のように本間のクラブを持って新聞に載れば、『本間のクラブならいいスコアが出るんだ』とだれもが思うのと同じです。(ふっふっふっ・・・ゴルフはクラブじゃないと思いますが。)
 さて最終選考に残ったのは10人ですが、そのファイナリストたちが選んだピアノは7人がヤマハ、3人がスタインウェイでした。これにはヤマハの面々も歓喜しましたが優勝したピアニストが選んだのはスタインウェイでした。その昔、ヤマハがピアノ造りを開始したころ世界の嘲笑を浴びていたそうですが、それを考えれば隔世の感がありますがやはり甘くはありませんね。でもいつかは日本のピアノで演奏したピアニストがショパンコンクールで優勝する日は確実に来るでしょう。
 ところで、ヤマハのピアノを主導したトップ調律師はインタビューで『ピアノの塩梅(あんばい)が・・』(字幕)と語ってました。これを見て私は「えーっ!! あんばいって宮城県の方言じゃないの―っ!!」と絶叫してしまいました。しかも漢字で『塩梅』と書くとは・・・!日々患者さんとのコミュニケ―ションは自然に行うことを第一に考えているので、方言でお話しすることはかなり多いです。たとえば入れ歯の患者さんには「入れ歯のあんばいはどうだったですか?」としょっちゅうお聞きしますが、てっきり方言だと思ってました。そもそも宮城県北ではちょうどいいことを『や(あ)んばいだね』と言いますからね。
 調律師によって厳密に調律されたピアノがピアニストに選ばれて快く演奏してもらうということは、歯科医師が丹念に製作した入れ歯を患者さんに快適に使ってもらうことと全く同じです。真冬のポーランドで大粒の汗を流しながら仕事する調律師のプロとしての姿を見て、自分も歯医者として気合を入れなおしました。
 ところでなぜ『あんばい』は『塩梅』なのでしょう。味の加減の良し悪しだから『塩糖』とか『大梅小梅』じゃないでしょうか。ちょっと辞書で調べようかと思いましたが、まあこの辺で止めるのがやんばいですね。