院長ブログ

2016-05-30 08:22:00

歯科医師の使命⑧

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 昨日は宮城県歯科医師会館で行われた学術研修会に出席してきました。主な演題は 1.高齢者の心身の特徴 2.救急時の対応 3.医療事故の予防 4.感染対策で、講師はそれぞれ東北大学加齢歯科学分野教授 服部佳功先生、同口腔麻酔学分野准教授 水田健太郎先生、徳洲会病院歯科口腔外科部長 郷家久道先生、入野田歯科医院 入野田昌史先生の4先生でした。後半の3先生の講演は以前もお聞ききしましたので今回は服部先生の高齢者についての講演をじっくり拝聴しました。その要旨と感想を述べてみます。
 日本人の平均寿命は長く高齢化が進んでいることや認知症の患者さんが増加していることなどご存知のとおりです。服部先生によりますと、漫画『サザエさん』は昭和20年代から新聞連載が始まりましたが波平さんは54歳、船さんは52歳という設定だそうです。つまり2人は当時昭和20年代の50歳代の典型像ということになりますが、今の我々からしてみればとても『老けて』見えます。現代の人間はそれだけ老化が遅くなり命が相当延びているからです。(ちなみに今の54歳男性の有名人を調べてみたら、木梨憲武、布袋寅泰、豊川悦司、柳沢慎吾、秋山幸二、52歳の女性だと南果歩、真矢ミキ、河合奈保子、髙樹沙耶とかです。やっぱり50代では『高齢者』とは言えませんよね。)
 ただ生命の期限が延びても生体の諸器官の期限まで伸びているわけではありません。人間の一生は健康な時期からやがて介護が必要な時期へと移って行きます。厚生労働省の日本人の平均寿命は男性80.50歳、女性86.83歳ですが、平均寿命と健康寿命には男性で約9歳、女性で約12歳の差があるそうです。つまりその9~12年の間は何らかの生活制限があり、人の手を借りなければ生きてゆけない(要介護の状態)ということになります。服部先生の話から、さらにその中間は「フレイル」と呼ばれる時期であり、健常な状態と要介護状態との中間の状態 と定義されているそうです。そして人間をいかにこの期間に止めておくか、あるいはこの時期の前の段階(健康)に止めておくかが大きな課題です。とりわけ認知症への対応がひとつの大きな問題となります。認知症の発症を完全に抑制することは極めて困難ですが、発症を遅らせたり進行を抑えることは可能です。ですから歯科医師にとって口の中の健康を維持させることによって健康寿命をできるだけ伸ばすことが大きな役割です。
 もう一つ大事な話として、歯科医師と認知症の患者さんとの関わりのなかで難しいことのひとつに治療の意思の確認があります。治療の意思がないのに歯科治療を進めるわけにはいきません。通常は家族などの同意を得て治療を行いますが、逆に家族の都合で家族に拒否される問題も発生します。認知症を発症する前に臓器提供のように意思の表示ができればいいですがまさか一本一本の歯の治療の可否まで表示するのは不可能でしょう。でも認知症だからといって治療を進めなければさらに症状が進行します。医療の現場の人間としては必ず直面する大きな問題です。
 またフレイルにはフレイル・サイクルというのがあるそうです。フレイルにいる人が悪条件を繰り返される事によりやがて要介護へとどんどん進む悪循環のことです。主な現象として認知症の場合低栄養になりがちになり、低栄養は認知症を進行させ、するとまた低栄養になり・・・というのが一つのフレイル・サイクル(悪循環)です。人の栄養摂取には口腔内の各器官が関与しているわけですから我々の責務は重大だということです。
 さて、健康雑誌や週刊誌には認知症予防の特集がしょっちゅう組まれ、その中では歯を大事にすることが定番となっています。残念ながらサザエさん一家の口の中の様子まではわかりませんが、現代では歯を残す意識の高さは当時と比べ格段の差があると思います。むちゃむちゃな論理ですが 歯を大事にする→認知症を予防する→老化を防ぐ→若く見える→サザエさん一家のように何十年たっても昔のキャラのままでいられる→だったらいいですねえ。