院長ブログ

2016-03-11 00:22:00

歯科医師の使命⑥

201603111224452196.jpg
また思い出したくない、でも忘れるわけにはいかない日が来ました。東日本大震災の記憶はいまだにほとんどあの時のままです。私の生まれ育った家は気仙沼市内に有り、しかも海岸から100m以内のところで、石を思い切り投げれば海に届く距離でした。そしてあの津波です。木造の我が家は簡単に倒壊してしまいました。気仙沼に帰っても懐かしの実家はもうありません。すでに更地となりそこには災害復興住宅が建つ予定です。ただ近親者に震災で亡くなった人間がいなかったことは不幸中の幸いであり、家一軒で済んだのだからと慰めていました。 
 しかしあの震災で自分が最も衝撃を受けたのは、遺体の検案(身元確認)作業でした。震災による遺体の身元が明らかになった方法で最も多いのは衣服や所持品ですが、次はDNA鑑定や指紋ではなく歯による鑑定です。これはどこのだれかわからない人を特定すのではなく、『この人は○○さんでは・・』という時に過去の歯の治療歴(カルテ)と実際の口の中を照らし合わせるとかなりの精度で特定することができます。
 震災時、わずかな時間ですが南三陸町でこの作業に従事しました。次から次と運ばれてくる遺体にせかされるように検案作業取り組みました。黙々と遺体捜索に繰り返し繰り返し寒空の下に突き進んでいく自衛隊の皆さんの気力に圧倒され励まされ仕事をしたものの、何十という棺が並んだそばで行うという異様な状況で『これは現実か!?本当に現実なのか!?』と空虚感にさいなまれながら取り組んだことをついさっきのことのように思い出します。
 3月8日現在、まだ2500人以上の人が行方不明、身元不明の人も75名にのぼるそうです。そして我々の仲間である警察歯科医が現在も日々検案作業に従事しています。同じ歯科医として誇りに思い敬服しつつ、一刻も早く行方不明の方々が発見され、身元が明らかになりご家族のもとへ帰れるよう願ってやみません。